優しい仕事、冬
AB(なかほど)





あれっ、お客さんも嘘をお探しですか。うち
は元々まごころ屋なんだけどねえ。ええ、い
いですよ。お代の方は必要な時間だけ、お客
さんの寿命で払っていただきます。

軽い嘘、真赤な嘘、女性用嘘泣き(涙付き)、
男性用嘘泣き(雄叫び付き)、嘘八百(回数
券=記者会見などに)、嘘も方便(店長オス
スメ!)、重大な嘘、人を傷つけるためだけ
の嘘(当店では自主的に販売を控えておりま
す)

その「重大な嘘」ってやつは、支払いに一生
かかっちまいますよ。「軽い嘘」にしときま
しょうか。

そうですか。とりあえず自前のまごころで乗
り切りますか。まあ、それもよろしいかと。
何かありましたら、またどうぞ。

あっ、お客さんのまごころの下取りもやって
ますよ。でもこの頃、高くは売れないんだよ
ねえ。一生もんなのに。





卵を産もうとするシャケは身が白くなる。ま
ずまず、白くなっても味は変わらないと思う
のだが、それでも紅いほうが美味しそうに見
えると、おじさんは卵を取り去った腹に紅麹
をなぶりつけて、物干竿に吊るす。紅麹は亜
硝酸と違って、身体にいいこともわかるんだ
けど。なんで白くなるのかおじさんに聞けば
すぐ答えてくれるのだろうけど、つまんない。
腰の曲がったおばばに問うてみると、見事に
頬を染めてくれた。





藻採り雪の近づくと

炉端できゅうきゅうと

支度をする祖母は

乙女に変わる

潮の滲みて来ないよう

きゅうきゅうと

生憎の戻り雪になるも

膝をさすりつつ

華の起つ藻場

の向こうを眺めている





まごころ屋が閉店になる。
やっていけなくなったのではなくて、もう後
継ぎができたのだ、と言う。けれどこの町の
誰も、その後継ぎのことは知らない。

まごころ屋は、壊れたオルゴールの小箱を眺
めながら、今度は、別離のテープの切ったり
貼ったり屋になると言う。

そんな人達に、

もう
  いいのですよ

と言うのが僕の仕事、なのだけれど。








自由詩 優しい仕事、冬 Copyright AB(なかほど) 2019-12-11 22:15:42
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