優しい仕事、冬
AB(なかほど)
1
あれっ、お客さんも嘘をお探しですか。うち
は元々まごころ屋なんだけどねえ。ええ、い
いですよ。お代の方は必要な時間だけ、お客
さんの寿命で払っていただきます。
軽い嘘、真赤な嘘、女性用嘘泣き(涙付き)、
男性用嘘泣き(雄叫び付き)、嘘八百(回数
券=記者会見などに)、嘘も方便(店長オス
スメ!)、重大な嘘、人を傷つけるためだけ
の嘘(当店では自主的に販売を控えておりま
す)
その「重大な嘘」ってやつは、支払いに一生
かかっちまいますよ。「軽い嘘」にしときま
しょうか。
そうですか。とりあえず自前のまごころで乗
り切りますか。まあ、それもよろしいかと。
何かありましたら、またどうぞ。
あっ、お客さんのまごころの下取りもやって
ますよ。でもこの頃、高くは売れないんだよ
ねえ。一生もんなのに。
2
卵を産もうとするシャケは身が白くなる。ま
ずまず、白くなっても味は変わらないと思う
のだが、それでも紅いほうが美味しそうに見
えると、おじさんは卵を取り去った腹に紅麹
をなぶりつけて、物干竿に吊るす。紅麹は亜
硝酸と違って、身体にいいこともわかるんだ
けど。なんで白くなるのかおじさんに聞けば
すぐ答えてくれるのだろうけど、つまんない。
腰の曲がったおばばに問うてみると、見事に
頬を染めてくれた。
3
藻採り雪の近づくと
炉端できゅうきゅうと
支度をする祖母は
乙女に変わる
潮の滲みて来ないよう
きゅうきゅうと
生憎の戻り雪になるも
膝をさすりつつ
華の起つ藻場
の向こうを眺めている
4
まごころ屋が閉店になる。
やっていけなくなったのではなくて、もう後
継ぎができたのだ、と言う。けれどこの町の
誰も、その後継ぎのことは知らない。
まごころ屋は、壊れたオルゴールの小箱を眺
めながら、今度は、別離のテープの切ったり
貼ったり屋になると言う。
そんな人達に、
もう
いいのですよ
と言うのが僕の仕事、なのだけれど。