ぬえ
たこ

ぬえ


しんしんと降りつもる秋の夜に
うぶごえをあげる ぬえがいた
かよわい躰をふるわせて
まぶたをわななかせている ―小さな命

ふかふかしたうぶ毛の先で
無数の夜霧がしずくとなって
きらりと、星影を輝かせながら
 ぽとり、ぽとりと
  おちてゆく

こぼれ落ちた星の夜の
ざわりとした天蓋は
 かたすみに隠れる闇より深く
 いまにも、ぬえをのみこみそう

ふるえるぬえよ、
お前はなにを想うのか
あたたかく鼓動する血脈に
いきものの火を宿らせて

ぬえよ、いま、なにを想うのか
夜はながく、月は遠い
暁に光が差し込んで
闇を打ち砕くのはまだ先だ

深い深い暗がりで
 小さな舌をチロチロさせて
  ひそかに、何を語るのか

無数に伸びる赤い襞
パチパチとひかる炎の白
きっとそれはぬえのことば
ぬえの叫び ―ぬえなのだ。

ぬえよ、夜明け前に焚かれる釜戸の火よ
小さな、小さな炎の子どもよ

つかの間に命を宿し
炎が孕む光と影の、
その狭間

永遠に夜明けを待ちながら
くりかえし
 ひそかに、輝いている


自由詩 ぬえ Copyright たこ 2019-12-11 01:05:51
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