ナイナイ 尽くせない
こたきひろし
腕に時計したことがない
ダイナマイトの束、体に巻き付けたことがない
腕に時計をするなんて
それに等しいと思ってしまった
放課後の学校の屋上
飛んだことがない
放課後の黄昏は寂しすぎて
ダイビングには相応しくなかったから
幾ら反抗期だったからと言って
母親の首までは締めたことはない
反抗期にだって
父親には何一つ反抗できなかった
一匹の弱虫には
あんた性格暗いね
いつもなに考えてるの
そんなじゃ男友だちだっていないよね
ガールフレンドなんて
いっしょう
無理だよ
可哀想
な男
とさえ言われたことはない
周囲から
存在そのものが
シカトされていたから
新しい玩具を買って貰うと
男の子はそればかりに夢中になって遊んだ
夢中に遊びすぎたから
だんだんに冷めていって
そして厭きてしまった
厭きてしまうと
玩具の構造を知りたくなった
何で動くのかを
だから分解した
バラバラにしたら元に戻せなくなった
元に戻せなくなったから
放置した
ことはない
単純に
家は裕福とはかけ離れていた
玩具なんて買って貰っていなかったから
腕に時計なんてしたことがない
何を好んで
時間を腕に巻きつける
必要が
有るんだ
なんて思った訳でもない
ただ単純に
腕時計買うお金が
なかっただけ