ほくろ
たもつ
バスを待っていると
昨年死んだお父さんが縄をもってやってきた
電車ごっこの相手を探していると言う
せっかくだから車掌をやることにした
もともと小さいお父さんは
死ぬ前にさらに小さくなった
よく見ると今日はもっと小さくて
体操服を着ている
どこまで行くか聞かれ
駅まで、と答える
二人をつなぐ縄はお互いの腰の位置にあるから
水平からかなり傾いた格好悪い電車だ
首筋に見慣れたほくろがある
幼いころからあったと初めて知った
何しに行くの
取引先のところに行くんだよ
偉くなったね
お父さんの歩幅に合わせて
電車はゆっくりゆっくりと走る
このままでは約束の時間に間に合わないけれど
全部お父さんのせいにしてしまえと思った
こちらの心の声が聞こえたのか
お父さんは生きているときのように
それがいいよ、と言った