ほくろ
たもつ

バスを待っていると
昨年死んだお父さんが縄をもってやってきた
電車ごっこの相手を探していると言う
せっかくだから車掌をやることにした

もともと小さいお父さんは
死ぬ前にさらに小さくなった
よく見ると今日はもっと小さくて
体操服を着ている
どこまで行くか聞かれ
駅まで、と答える
二人をつなぐ縄はお互いの腰の位置にあるから
水平からかなり傾いた格好悪い電車だ
首筋に見慣れたほくろがある
幼いころからあったと初めて知った

何しに行くの
取引先のところに行くんだよ
偉くなったね
お父さんの歩幅に合わせて
電車はゆっくりゆっくりと走る
このままでは約束の時間に間に合わないけれど
全部お父さんのせいにしてしまえと思った
こちらの心の声が聞こえたのか
お父さんは生きているときのように
それがいいよ、と言った



自由詩 ほくろ Copyright たもつ 2019-12-03 22:45:09
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