思椎の森で化石になってしまった
こたきひろし

死ぬくらい
体は酷く疲れていた
のに

神経はやたら昂っていた

午前二時を過ぎていた
市営公園の駐車場に停めた車の運転席で
うつらうつらしていた

明日も仕事だ
工場で働く
なのに
アパートに帰って眠る気にはなれない

アパートには
誰もいない
妻はいない

愛しい人は
お腹に宿した子供を
無事に出産してくれるだろうか

仕事中に産気づいて
必死に連絡してきた

俺は初めての経験に我を失いそうになりながら
職場に許可を貰い
自宅アパートに車を走らせた


妻を車に乗せて
近くの産院に連れていった

産院の廊下で午前0時近くまで
じっと待っていた

看護婦がやってきて
奧さんまだまだ時間かかりそうです。いったん帰って貰えませんか。何かあったら連絡しますから。
と言われたので
俺は素直に頷いてから質問した
いつ頃産まれますかね?
看護婦は答えてくれた
それは分かりません。奧さんと赤ちゃんしだいかな?
冷静な対応だった

俺は産院から出て狭い駐車場に停めた車に乗り込んだ
内心はほっとしていた
極度の緊張から解放されて安堵したからだ

結局男には何もできない
ひたすら待つ以外に方法はないのだ

公園の駐車場に巡回のパトロールカーが入ってきた
他にも数台が停まっていたが
迷う事なく俺の車の横に停めた

すると驚いた事に
他の数台がいっせいにエンジンをかけると
ヘッドライトをつけて逃げるように駐車場から
出ていってしまい唖然とさせられた

降りてきた警官が俺の車の窓ガラスを叩いた

俺は化石になってしまったみたいに
固まってしまった

固まってしまった


自由詩 思椎の森で化石になってしまった Copyright こたきひろし 2019-12-02 07:28:41
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