果実投身事件簿
卯月とわ子
音もなく
果実が枝から落ちた
アスファルトに広がる無残なそれらは
太陽のように輝いていた
あの果実とは思えない
これは大事件だ
心の中で大声を上げて
誰かを呼んでみた
寄ってくるのは烏ばかりで
広がる果実の中身を奪っていくだけ
わたしが求めていたのは何だったのだろう
優しい手が伸びて
果実を空中ですくい上げる夢を見た
あの手をわたしは持っていないと
夢から覚めてようやく気付くなんて
誰の記憶にも記録にも残らない大事件だ
明日には消えてなくなるだろうから
わたしだけはここに書いて残すのだ