あり得ない妄想
こたきひろし

真っ青な大空
太陽がかんかんと燃えてやがる

やたら眩しいから
ためしにこの手でえぐり抜いてやりたい気分さ

この世界はあらかた人で埋まってしまったけど
人間って奴は息づかいが荒いよ
その内に地球上から空気も水もなくなってしまうぜ

名もない川の土手に立っていた
その頃も俺は名もない少年だったけど

川の向こう側は鬱蒼と樹木が生い茂る山肌で
時折
鳥が鳴くんだ

俺はいったいここへ何しにきたんだろ
十三にもなって頭が空っぽじゃ
先が思いやられるぜ

炎天下の真夏日だった
昼過ぎていた時刻

俺は川原に下りてみた

今ごろは上流の深い辺りで
俺と同い年の奴等が
男女入り交じって
泳ぎながら遊んでいるだろう

大声をあげながら
もしかしたら
そのなかの一人くらい
溺れ死んでいるかもしれないな

深い水のなかは
魔界だからさ
足をひっばられて
引きずり込まれるのさ

仲間たちは
誰一人気づかなくて
水遊びに夢中になってる

俺は母親からきつく止められているんだ
川遊びは命を落とすから
するなって

事実
せっかくの命を川底に落として拾えなくなった
弔いが毎年出てるのさ

俺の父親は石に名前を彫るのが上手で
頼まれると墓石にも彫ってあげてた

部落には
桶を作る名人もいて
頼まれると棺桶も上手に作るのさ

世の中はもちつ持たれるさ

その頃はみんなみんな貧困のどん底
それでも子供は生まれてくるのさ
娯楽のない時代
夜の営みしか楽しみはなかったんだろ

仕方ない
それが生殖
男と女の性だからさ

と言っても
女の子供が産まれると喜ばれたんだよ

初潮が来る頃には女郎やに奉公に出せるからさ
その為に人買いがやって来るのさ

道理で
水遊びの途中で足を引きずり込まれるのは
女の子ばっかりだった訳さ

そんな事情で
生きたまんま
葬式出された訳さ

親と一生会えない
別離だから




自由詩 あり得ない妄想 Copyright こたきひろし 2019-11-23 07:27:00
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