水牛を追う少女
狸亭

不機嫌な運転手の硬い毛髪の臭いに堪え
埃塗れの道を走り続けて永い時間が過ぎ
険しい人の顔が溢れ活気ある村落に着く
下半身に溜る不快な重量は増大してくる
乾季のただ中に晴れ上がった大インドの
悪意に充ちた空から熱い日は注ぎかける
立ち並ぶ粘土造りの茶店から離れた場所
背中に集まる好奇の目や目の群れを弾き
広がる水田の緑と遠い雲を見て放尿する
振り向くと乾いた泥を塗られた重い水牛
血走った目を大きく見開き膨らんでくる
身を反らすと牛はゆっくり離れて行った
瘠せている少女が細い鞭を振り牛を追う
その鞭のように嫋やかな跣の脚が走って
振り向いた感情の無い鋭い刃のような目
水牛を追うインドの少女の強い眼差しが
埃の幕を通していつ迄も追いかけて来る
必死に立ち尽くす文明の肉体を突き破り
牛と少女の目が陽炎の向こうに見たのは
天安門広場ベルリンの壁や東京ではない
ガンジス河に昇る太陽と消えて行く月だ



自由詩 水牛を追う少女 Copyright 狸亭 2003-11-21 08:38:49
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