車内
たもつ
車内はひんやり寒い
乗客はみな一様にうつむき
僕の呼吸だけがまた
不細工な格好で繰り返される
耳元で川が流れている
昔、綺麗な魚に見とれて
手袋の片方を落とした
それは確かにあったことだが
川の名をいつも思い出せない
ポケットから次々と生まれる
新しい僕という僕
行き場も無く僕は僕であり続け
せめて僕たちが
他の誰をも傷つけませんように
茶色い髪の女の人が
あっ、と小さく叫ぶ
嘘だ
それは手袋を川に落としたあの日の叫び
片方の手はまだ冷たいまま
自由詩
車内
Copyright
たもつ
2005-04-06 12:58:03
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