夜警
朧月夜

 落ちていった……ビルの底に。光は星から降り注ぐ、気泡のように溶けていく月を後に残して。……星から光は降り注ぐ、見上げる目に刺さる、一つの痛みとして。落ちていったのは、ビルの底に、人の形としてある影としてのわたし。

 忘れ去ったものが、心の形骸を思い出させるように、付箋のように何時かまとわり付く。心と形骸とを思い出させるように……。

 あなたがふと笑ったとき、わたしはそれを目にしなかった。誰もが通り過ぎる風のように、あなたとわたしを見ずに過ぎ去ったのだろう……、無情の法のように。

 形無しになった、いつかの約束を忘れて、急ぎ足で急ぐ、いくつもの影の群れの、色彩だけの形のない魚。透明に、非情に。

 わたしたちを素通りして、わたしとあなたとを素通りして、わたしではないものも、あなたでもないものをも、素通りして……。

 無情の掟のように、鐘は鳴る。それ自身が落ちていく、ビルの底に。星から光は降り注ぐ、気泡のように溶け去った、月を後に残して。……見上げる瞳に刺さる、一つの忘却として。落ちていったのは、ビルの底に。人の影としてある、虚ろとしての証/私。


自由詩 夜警 Copyright 朧月夜 2019-11-12 11:12:51
notebook Home