港の、
白/黒

 港の岸壁のうえに座り込んで、足を垂れる。すべてが霞んだ空の下、私の足指は水に触れる、水に触れる。──思惟などはなく、重く空が地上との境界線をあいまいにしたまま、溶け込んでいく。それは風景のなかの私なのか、私のなかの風景なのか、どちらから落ちてくる思い? どこからは舞い上がる心? 混じりあうこともなく、すべてが「全的」に一体化する。……それは、オクターブの境界を越えて、無限大から無限小へと降りてくる、グラデーションなのではないのかと、移り変わる光の濃淡のうちに、無色の清浄のうちに紛れ、個々の粒子の総体として、取り込まれていく。世界でもあり、世界でもないものへと。街は、海のなかに沈んでいるのか、海のうえに浮かんでいるのか──私は知らない。私を知らない。私を知る術のない、私を知るものがない。

 港の岸壁のうえに座り込んで、脚を揺らす。その水面に果てる波紋が、すべての灰色を飲み込んでいく……。消えたのは、消えていくのは、一個のメロディーか、ゼロとしての静寂か。

 私の、私の思い出を、返して。返さないで。オルゴールの響きのように、階層のない、階層のある音たちが、これらの聖域を覆っていく。消えたのは、消えてしまったのは、消えかけているのは、──私を除外する全てではないのか。なかったのか。……一つの疑念。無数の疑問。


自由詩 港の、 Copyright 白/黒 2019-11-12 11:08:57
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