仮定の連鎖
こたきひろし
もし
地球が半分腐っていたとしても
残り半分まともなら
それはそれなりに
バランスは保たれて
朝はやってくるし
日は暮れるだろう
何の根拠もなしに
そう思ってしまう私は
心が千切れてはいないかと
たえず不安になる
もし
この世界が半分腐った林檎になってしまっても
もう半分が腐っていかなければ
林檎に変わりはないだろう
とか
私はその時十七歳だった
ある日十個歳上の姉に言われた
「あんたは幾ら叩いても釘の刺さらない糠ね」
そして姉はこうも言った
「あんたはいったい何を考えているかさっぱり解らない。まるで宇宙人みたいだ」
言われて
私は何と返答していいかわからなかった
言葉を失い
ただ否応なしに
涙があふれてきた
自分の存在価値が全否定されたようで
それで
淀んだ心を洗いながしたくなった
もしかしたら
私の半分は誤りなく腐っていて
片半分も腐りかけているのかもしれなかった
そんな仮定が暗雲のように垂れ込めて
涙の雨を降らしたに違いなかった
すくわれようのない
十七歳だったのだ
私はその日から
自分は叩かれても釘の刺さらない糠なんだと
思いしってしまった
未だに
それを引きずっている
暗がりの中を
暗がりの中へと