貝の浜
湾鶴



海辺の坂を走る自転車のブレーキが
みぃみぃと鳴く
それが合図だったかのように
目をつぶると
浜辺の巻貝の中へ
体が入り込んでしまった
殻の奥でくつろいでいた巻貝は
ヌルリとだるそうに寝返りをうち
侵入者を拒もうと
どんどん膨らんで迫ってくる
しばらく押し合い圧し合いしていたが
どういうわけか貝殻はそのうち乾いていき
そのうちどこを探ってもあの湿り気はなく
まるで乾燥機の中に居るようになってしまった
ホーホーと熱い空気が胸を抜けてゆく

光が、やんわりと差し込んできた
目の力が抜けてくるよ
足もサンダルにひたりとくっつくき
じんわりと汗をかいていた

浜から坂道に戻っても
まだ自分の半分は浜にいるような気がして
振りかえる
浜辺は同じように干され
自分の影はちゃんとついてきている
巻き貝はどこにいったのかわからないので
挨拶がわりにみぃーみぃと
ブレーキを踏んで帰った
日はまだやわらかい




自由詩 貝の浜 Copyright 湾鶴 2005-04-06 04:09:32
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