青菜摘みの乙女
朧月夜

 青菜摘みの乙女の墓は、ただの土くれの土饅頭で、その骨さえも焼かれなかったかもしれない。青菜摘みの乙女の墓は、ただの透明な空隙で、訪れる者さえもやがていなくなった。青菜摘みの乙女は、霊に囚われたまま死へ向かって踊り続け、誰も顧みることのない境界へと彷徨い着く。神は傲慢な視線で人を見すえ、人の運命を翻弄する。青菜摘みの乙女の元に、舞い降りた彼の人の霊は、やがて乙女をも狂い死なすのだろう。稀人、言祝ぎ、言霊……。取り付かれた者に拒むすべはなく、ただ翻弄されるままに謳いをしなければならない。青菜摘みの乙女の瞳から、一滴の涙が落ちる時、霊は自らの涙を流したろうか、それとも煉獄の彼方にあって乙女をあざ笑うのか……。青菜摘みの乙女の墓は、歳月を経てもただの土くれのまま、霊の歌わせた謳いだけが、美しいものかのように残る。


自由詩 青菜摘みの乙女 Copyright 朧月夜 2019-11-07 16:13:29
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