桜の木の下で
ベンジャミン

肩にまわした枝先から
次々に花が咲くように思えたのは
良く晴れた陽のまぶしさでなく
あれはそう
池のほとりから身を投げ出して
舞う花びらをつかまえようとした
少し危うげな
それでいて柔らかな一瞬のせいでした

渡り鳥の消えた穏やかな水面は
水底を隠して空を映し
垂れかかる桜の木の枝を浮かべては
花色を薄くひきのばしていました

四月は
そんな優しさをたなびかせて
風のぬくもりにも微笑んでしまいそうな桃色で
あなたは桜の木の下で
背丈と同じほどの花に手をのばし
恥ずかしそうな花弁を
くすぐるようにのぞいている

どれほどの時間が流れても
そこだけは許された花園だというように
傾く陽の動きさえも
花色を変えるためだけにありました

春ですから
沸き立つような水辺の陽だまりに
片足だけをのばして小さな影をつくる
あなたの
少しふざけた仕草さえ
景色に溶け込ませてしまうのはもう
仕方のないことですね

あきらめたように少し先を歩き
からかってくる桜の枝をかきわけながら
進む私のあとを

あなたは小走りで追い駆けてきます

   



自由詩 桜の木の下で Copyright ベンジャミン 2005-04-05 22:32:28
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