無題
朧月夜
知り合いが増えれば増えるほどに、
切なさも増していく
そう教えてくれたのは、誰だったろう。
今はもう遠い場所にいるのだろうか。
ふり返れば、あなたの言葉だけを覚えている。
わたしはあなたの名前を知らない。
わたしはあなたの身体を知らない。
わたしはあなたのすべてを知らない。
何もわからないよ、何もわからないよ、
気が遠くなりそうなほどに。
何もわからないの、何もわからないの。
神は分かっているのだろうか。
あのレンガの向こう、コンクリートの向こう、
ポプラ並木の向こう、銀杏並木の向こうに、
あなたはいるのだろうか、
それともどこにもいないのだろうか。
あなたの吐き出したいくつかの思いは、
あなたが綴ったいくつかの言葉は、
今でもわたしの胸を締め付ける。
まるで、わたしを天国に引き留める呪縛のように。
「永遠の魂なんてないよ、
魂のルフランなんてないよ。
だって自我とは点ではないのだから。」
わたしの中にいるあなたは、あなたではない。
雨が、すべてを洗い流してしまったらしい。
また一からの、やり直し。
すべてをまた思い出していかなくてはいけない。
すべてをまた綴りなおしていかなくてはいけない。