無題
朧月夜
君の目のなかにある夢の滴を、
君と言う。
ただ君のなかにある夢だけを、
わたしは追いかけて。
それを光とは呼ばない、
あまりにも遠いのだから。
君はいずれ、
わたしを去るのだろう、
その夢とともに、
死に近い夕べへと。
だから、さよならとは言わない。
すべての理を越えたところで、
わたしたちはいつか出会うのだから。
例えば、雨。
わたしが葉の上の雨滴であるとき、
君は吹きそよぐ風。
わたしが五線譜上の音符であるとき、
君は美しく奏でるヴァイオリンの奏者。
わたしが目であるとき、
君は微笑み。
君とわたしとは、
出会ったのではない。
永遠のすれ違いという宿命を、
ただ共有したのだろう。
だから、君の目にある夢の滴だけを、
君と言い、
君の悲しさという。
君とわたしとは出会えない。
それはいつかの君の、
優しい嘘だった。
永遠のすれ違いのなかで、
君とわたしとは観測しあった。
それぞれの涙を、
それぞれの哀しみを、
それぞれの夢と偽って。