真似事――空白に遠く鳴り
ただのみきや
朝酒の代わりにシャンソン秋に酔う
幸せは演じることがその秘訣
極端に厚着と薄着の大学生
影を踏む鬼と知られずする遊び
花供え帽子目深に被る人
暗渠へと涙を流し生きる人
生垣も並木も流行りの赤を着る
シマエナガ愛くるしさにぷっと吹き
陽だまりの蜜蜂追えば夏還る
故知らず月に引かれて鳴く真珠
記憶開き痛み奏でるオルゴール
問ひとつ答はいつも異なる詩
ペンを止め命の砂の音を聞く
今を乗せ小舟は下る時の河
いつまでも若さ愚かさ引きずって
幼さの鞘から抜いた女の刃
曇天に風の手遊び楓舞う
絆絶ち風と踊る葉重ね見て
言葉取る受け手与え手意を違え
翻る言の葉裏の斑模様
求めても得ずに失う空の果て
鳥落ちる夜を渡った凪ぎの朝
理解とは頭のサイズに直すこと
理解とは言葉で出し入れできること
願わくば理解不能で愛したい
見つめよう枯葉の小舟沈むまで
《真似事――空白に遠く鳴り:2019年10月27日》