残酷という花嫁
こたきひろし
あくまでフィクションです。
嫁入り道具の箪笥は別に新品でもなくてもかまわないわ
ぼろいのはさすがに困るけど古くても味わいのある方がいいと思うから
鏡台はいらない
あたし目鼻立ち不揃いだし、スタイル良くないし
大きな鏡なんて見たくない
嫌みな冗談で言ったつもりなのに
もうすぐ嫁入り予定の娘の母親は真に受けて目をつり上げた
「ふざけないで初婚の花嫁なのに人の手垢のついたものなんて持ってける訳ないじゃない!」
叱りつけてから
「あんたこの縁談に不満でもあるの?もしかしてマリッジブルーってやつ?」
「違うのおかあさん。お相手はあたしなんかにもったいないくらいよ。学歴はいいし、公務員だし、好い人そうだし、見た目もわるくない。ご両親はそれなり資産家だし人柄も良さそうだし。このまま結婚したらあたし幸せになれると思うわ」
言ってから娘は思案げな目をした
「あたし正直迷ってるの。いや、迷ってたの。あの人の事」
あの人って、あの男の事」
母親は広げた新聞紙を畳むように聞いた「別れたんじゃないの?」
「うん、別れたつもりだったのね。あの人いつまでも煮え切らない人だったからさ。でも、縁談の事話したら、俺頑張るからお前の事ちゃんとするからって言ってくれたの」
申し訳なさそうに小声で娘は答えた
「だから何なの?」
母親の口調は再び火を吹いた
「だからこの縁談断りたいの」
それを言った途端、母親は怒りが爆発して瞬間、手が娘の頬を叩いていた
叩かれて娘は泣き出した
「あんたそんな身勝手我が儘が通るほど世の中甘くないわよ!」
母親は冷静さをすっかり失ってしまっていた「もう結婚の日取り決まってるのよ。後戻りは出来ないから!」
「何でもいいから結婚式をあげればいいの。そして新婚生活送ればそのうちに気持ちなんて変わるから!」
ほぼ暴言に近い言葉を吐いた
「イヤよそんなの!」
泣いてる場合じゃなかった
娘は強く拒否した
すると母親は声のトーンを落としてなだめるように言った
「馬鹿だねお前は、直前で破談にしたら責任取らなければならなくなるんだよ。慰謝料とか掛かった費用をこっちで払わなければなくなるよ。下手をしたら訴えられて裁判沙汰になるかもしれない。まして他に男がいると分かったら結婚詐欺にされて逮捕されないとも限らないよ。そうなったら嫌だろお前だって?もしそうなったらお前の人生終わりだよ」
と悪魔が囁くように母親は言い「あの男とは別れなさい。夢ばかり追いかけている男なんてどうせクズなんだから」