真似事――愛・死体・秋
ただのみきや

愛死体秋すぐに冷たくなって


泣くように笑う男が書いた遺書


未来捨て過去と駆け落ち心中する


蝸牛踏めば悲しい軽すぎて


傘の花みんな流れて校門へ


ひっつめの少女の眼鏡に落ちるもの


涙なら傘も差さずに濡れるだけ


霧雨を含んで薔薇は項垂れる


砕かれた花器の欠片が想う花


目を合わせ言葉を交わし身は触れず


巡礼も放浪癖も根は同じ


魂の写し絵求め往く人よ


ハスキーの表情俄か読み取れず


ハスキーの鎖半径広すぎる


ハスキーに尻を突かれてアウと鳴く


愛希望平和に自由まだ言うか


無尽蔵虫の宇宙に息を止め


紫蘇の実をほぐす後ろに暫し立つ


鴉には盗み強奪罪でなく


日が射して終わりの蝶の翅開き


開かれた翅にあるのは誰の詩か


宛先を失くし手紙も蝶になる


忘却は頭の中の落とし物


紐解けば知識虫食い紙魚だらけ


安酒の前に佇みなお迷う


弱ければ強く出るしか術はない


本開き寝しなに落とし顔を打つ


風の朝メジロの顔に頬ゆるみ


ポニーテールメトロノームにつられて


美人が増えたのかおれが変なのか


言葉意味変わらず対象ずれて往く


桜の葉だれの返り血浴びたやら


ひとり飲む当てにならない相手より


あてよりも相手が欲しい酒もある


雑念の海に女神の死体浮く





             《真似事――愛・死体・秋/2019年10月12日》









俳句 真似事――愛・死体・秋 Copyright ただのみきや 2019-10-12 19:47:44縦
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