火照り
すいせい


同じ方向をみている
静止したまま
なにも言わずなにも吐かず
同じ方向をみている
そのまま時が止まっても
ゆきがふりつもっても
気づかないだろう静謐さで
みている
動かず
生きている
振動を満たす水盤の
溢れるに任せたまま
そのものが諦めてしまったように
同じ方向をみている
みている





ゆき
というなの
しょうじょをあいした
どこへむかう
ことのない船室で
さらさらとこぼした
髪の方角だけ気にしていた
ゆき は
はだのしろい
しょうじょで
息を止めるのが好きだった
いつか本当に止まってしまうのを
待っていたのかもしれない
ゆきは
とても愛されたしょうじょだった
けれども愛されるたび
息を殺して
愛されないふりをした
ゆき のふるあさ
今度はほんとうにいきを殺してしまった
ゆき は
悲しさに 微かなむねをふるわせて
愛されたことを 忘れようとした
ゆき の自涜は止むことはなく
ゆき のすむ国を
ななねん ゆきに鎖ざした
船はやがてくちて
底には枯葉やさかなの骸がよこたわり
くるくるとまわる
それは ふるまえのただしい行方を
探しているようで
ちがうよ ちがうんだよ

いいわけしてあげたいと
思った
ゆき というしょうじょを
愛した
かのじょは降り続ける
ななねん が過ぎたいまも
心臓のなかで





ギャ
ガチャ
サワ
パチ
タンッ
キョロ
……
スッ
ビクッ
ゴクリ
フゥ
「いつから?」
シュッ
パタン
シュボッ
パッ
スゥ
フゥゥ
……
「ずっとまえから」
チリチリ
ポト
サラサラ
……
フッ
「そう」
チラ
クンッ
ヒタ
「ずっとまえから」





さししめして
うしろめたく
やがておろした
髪の温度
平熱に乗り越えられていく
いくつもの国境を
わたしたちは
ゆききしている
「おきだしているのでしょう
「やさしいえがおを
「みせて それぞれの
「こきゅうで
「めぶくことの
「そのおそれを
もちろんさらしながら
「とうめいに
「とうめいになればいいと
喉の奥に植え付けて
むすうの保護林が 伸びていく
わたしたちは
ゆびきりしている
わかることは
ざいあく なのだ
そのいろは なに
ふるゆきは
ふれるまま
国境を越えることが
できなかった
私たちの約束が
静かに 彫像となる
五本の指を全て失い
膨らみかけた胸に
沈黙を植林されて
なにを護るでもなく護り続けている
花はゆきのいろにさく





それは病気ですか
それは病気です
うごかなくなったもの と
うごきだしたものが
若い月齢にてらされる
半分はかげで
半分はひかり
同じ方向をみていても
ちがう ことをしっている
そらが
青かった試しはなく
とりが
歌ったことはない
ただ
ゆきだけがふりつづける
あがないの ほてりに
亡霊のように
同じ方向をみている






自由詩 火照り Copyright すいせい 2019-10-11 16:20:09
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