クララ、貴女に会いたい
日比津 開

音楽史上、最も有名なエピソードの1つ
貴女ークララとロベルト・シューマンとの恋愛、結婚
そして夫亡き後のヨハネス・ブラームスとの謎の関係

数年前、僕は貴女が主人公の映画を観た
オープニングは、夫のピアノ協奏曲を演奏会で弾き
拍手喝采を浴びるところからはじまる

物語が進んでいき、デュッセルドルフの
オーケストラの音楽監督に迎えられた夫が
次第に病んでいく中で
貴女が夫に代わり
オーケストラにリハーサルを付け
それが成功したとき
幸せ一杯になって草原に駆け出し、
寝転んだ場面を覚えている
確かリハーサルの曲は夫の作品
交響曲第3番「ライン」だった

そこに青年ブラームスが現れ
貴女に思いを寄せていく
貴女と夫のシューマンは
まだ無名のブラームスを
世に送り出す努力をしていく

しかし一方、夫の音楽家としての活動は
精神の病、薬によって齟齬をきたし
遂には病院に隔離され
子沢山の貴女は家族を守るため
ピアノの演奏旅行の日々を送ることになる

そして、夫の死ー
父に断固として反対された結婚
幸せだった時期は
どのくらいだったのろうか?

シューマンは貴女と
ようやく結婚できたとき
歌曲の名曲を次々と産み出したという
そんなエピソードが好きで僕は
貴女が憧れの女性となった

たとえ、精神が病んでいっても
貴女の夫の作品には他の作曲家が
描くことができない輝きに満ちている

例えば、交響曲第2番の最終楽章
それまでの悲痛にも聞こえる旋律を
打ち消し、怒涛のように激しく
音楽を前進させていくところ
僕はこの曲を聴くといつも
感動ばかりでなく、元気をもらっていた

悲しみと喜び、不幸と幸せ
影と光のような対比がこの曲には
混在し、それが作品のすばらしさに
なっているように僕は感じる

映画のエンディング、貴女は
ブラームスのピアノ協奏曲第1番を
弾いている
まるで過酷な運命に立ち向かうように
必死の形相でー
そのとき、貴女は何を思いながら
ピアノに向かっていたのか?

シューマン、ブラームスは
あなたにとって
どんな存在だったのか?
それはさておき
もし時空をさかのぼることができたら
貴女に会い、コンサートで演奏を
聴いてみたい

きっと僕の貴女への憧れは
もっと強くなり、同時に
最大級の尊敬の念を深くした拍手を
貴女に贈るだろう
もし貴女に会えたら、これらのエピソードは忘れ
ただ貴女の音楽だけに耳を傾けることにしよう


自由詩 クララ、貴女に会いたい Copyright 日比津 開 2019-10-08 04:59:27
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