真似事――文字をほどいて火を点ける
ただのみきや

秋の雨引き戸を開き覗く夢


翻る少女の声も遠く去り


秋よりも秋を装う女たち


水槽に涙をためた金魚姫


翼切り歌を失くして人になる


手折るなら痛みの一つ分かちたい


老いらくの恋を抱えて終わりまで


真綿舞い枯れ菊ふたつ埋まるまで


旅人をもてなす準備かナナカマド


母通る前と後ろにこども乗せ


気の早い雪虫むねに降りきて


虫籠に夏の形見の蝶の翅


カマドウマ鳴けても好いてはもらえない


宙に浮きサイドミラーを覗く虻


干上がった道の真中でミミズ吠え


便箋の文字がゆらめき海になる


忘れ物取りに帰ってそれっきり


死んだ友夢で変わらず馬鹿をやる


老いぼれて何に投げるか火炎瓶


自らを砕いて炎まき散らす


立ち枯れて冬を待たずに逝く人よ


祖父と孫ほども離れた身と心


背伸びした祖母の戸棚の角砂糖


電子ジャー壊れる時も計ってか


でかすぎるアカミミガメに蹴躓く


重さより心傾く天秤か


花房のしずく瞳にもらい受け


わからず屋の目で君は葡萄を吸う


風上の見知らぬ女の吐く煙草




             《真似事――文字をほどいて火を点ける》








俳句 真似事――文字をほどいて火を点ける Copyright ただのみきや 2019-10-05 12:13:01
notebook Home