真似事――落下する意識
ただのみきや
子を叱る母の帽子に赤とんぼ
バスを待つ頬の産毛に光差し
空軽く眼を纏る金の糸
借りた本から押し葉の栞おちて
蔦燃える窓に映るは誰の影
液晶に飽きて見上げるうろこ雲
楢の実をしだきて影の長さ知る
雲さしてカナヘビ追えば靴の上
毬栗に触れてはじける子の仕草
値は手頃サヨリの如きサンマかな
蜘蛛の子を頭に乗せて帰宅する
サンダルが行き場を失くし引きこもる
きのこ刈りベニテングとはいざ知らず
きのこ食い見るものすべて輝いて
ただ一人確信犯はわたしだけ
顔もなく銀杏並木で振り返り
引き裂くか縫い閉じるのか若き日を
インド香白紙を歩いて来る女
宵闇に近くて遠い蟋蟀か
隠れ泣く死者の想いか蟋蟀よ
蟋蟀に誘われ今宵も墓地巡り
愛は嘘欲が真の船が出る
朝露に夢見溺れたギンヤンマ
青白い夢の死体を封筒へ
《真似事――落下する意識:2019年9月28日》