鯵とテレビと掃除機と
Seia

しばらくして
テレビを消した
部屋を満たしていた効果音とボケとツッコミが
少し開けた窓から外に流れ出すと
誰かが掃除機をかけているのがわかる

静かで
ひとりだ
冷蔵庫には
鯵の南蛮漬けを冷やしているから
今日はもう
何も買わなくていい

落ち着けば
落ち着くほど不安になってしまう
ちょっと騒がしい方が
様々なことを忘れられるから
パーティー会場
一枚ドアを隔てた外の椅子で
うっすらとざわざわを聞いているぐらいが心地良い

次回予告で
必ず会いに行くと誓った
主人公の次回を見る前に辞めてしまった
ドラマの中の時は三話で止まっていて
たまり続けている録画
凍ったままの時間
ラストに向けた番宣で微笑む俳優を
直視することが出来ない

気付いてしまえば夕方だった
ハウスキーピングで終わっていく一日に
洗いたてのグラス
ひとくち水道水を飲んだ
純水よりも
雑味がある方が美味しく感じると
どこかの記事で読んだのは本当だろうか

超難問クイズに答えても
百万円はもらえなかった
代わりに受け取った
それなりのうれしさを舌の上で転がす
一喜一憂している
画面の中の回答者は
どのわたしよりも活動的だった

それからまたテレビを消して
皿に盛り付けた
角が取れて
やわらかくなった鯵をつまめば
今は何もいらなかった
明日は明日で
何かを欲するのかもしれないが
例えば
掃除機の音とか


自由詩 鯵とテレビと掃除機と Copyright Seia 2019-09-21 21:59:36
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