別れの歌
メープルコート
目覚めると、先ほどの光景が記憶の片隅に消えてゆく。
天井に向かって手を伸ばす。幸せな記憶を逃がさないように。
それはするりと僕の手をすり抜けて記憶の彼方に消えてしまう。
もう無理だよ。君を捕らえられない。
君はもう僕のものではなく、僕ももう君のものではないのかな。
胸を薔薇の棘で刺されたような痛み。
逃げても逃げてもお前は狙いを定めて。
もう僕にどうしろと言うんだ。
あの頃の海は広大だった。
あの頃の山は雄大だった。
あの頃の秋は今はセピア色に染まっている。
悲しみでは涙は出ない。
さみしさも消え失せた。
忘却の泉は今もまだあの山の麓に一人佇んでいるようだ。