編み物ver1.1.1.1.1.1.1.1.1...
鈴木歯車

あなたはある日から編み物に熱を入れはじめた
はじめ一本だった糸を、互い違いに名前を付けて、
それらで淡々と、まぐわいを繰り返すことがたまらないのと笑っていた 
ひどく静かに

実はあなたを黒い淵から救い出すつもりだった
ぼくは編まれたものを 
ハサミで引き裂いたりもした
事実、かぎりない交配の果てに生まれたものは
化け物ではなく
おびただしい数の ただの赤い毛糸の衣類だったのに

何がそんなに恐ろしいの、とあなたは言った
そんな話が持ち上がるたび ぼくらは殴り合ったりもした
何が恐ろしいのかはとうとう分からなかったし
こんな季節に赤いセーターなんて
狂ってんのか

ぼくがその部屋をこっそり出て行ってから数年が経った
逃げるように職と住所を転々としているから
友達のいないまま暮らすのには慣れたが、
部屋がいつまで経っても片付かないのは何でだろう?
そういやあの編み物はどこにしまっていたんだ
埃一つ無い モデルルームのような1LDKだったが
ぼくが結局着なかったやつらは一体どこへ?

(たとえば皆のパラメータが多角形で現れたりする
様々な図形のなかで ぼくらは
凹んだ部分をみがき続けることで現れた空間の 
何ともいえない鋭さについて誇っていたのだ
そして意味の分からない動作を
おはようからおやすみまで繰り返すあなたを
どれほど疎ましく思っていたか 今はもう思い出せない)

今日も妙な夢を見た
赤い糸があなたの小指から出てきて
ぼくのうなじにじゅくじゅくと寄生していく夢だった
あなたとひとつになってしまわぬように ぼくはどこかへ走り出す
ただそんな夢だった

あなたは今でも あの清潔すぎる部屋で
誰にあげることも叶わない帽子を捨てずに
洗い続けているのだろうか
自分以外の痛みには鈍感な性分だったから、
いつか訳の分からない どす黒い毛玉になり果てても、
あなたは帽子やらセーターやらを
洗濯機で あらあらしく洗った後
それでも消えない一抹の赤色に
心臓に近い形の愛を見出して
静かに笑っているのだろうか
肌寒い部屋の中で いつまでも いつまでも


自由詩 編み物ver1.1.1.1.1.1.1.1.1... Copyright 鈴木歯車 2019-09-07 23:04:41
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