夢の晩酌
由木名緒美
ひとりの部屋に
はらはらと蛾がさまよい込み
白い壁に逆さまの
ハート模様をこしらえる
こんな日は
蛾にさえ心を慰められるものだ
浮き沈む日は山の間に
虫の囀ずりは蜃気楼のごとく
幼子よ
彼の温もりは安らぐか
報いの吉報は的を射たのか
鈴生りの鼓動に螺旋は果てなく
フラスコの底で記憶がふふふ と笑う
煙となって登りきるなら
血の一滴も流してみようか
去る部屋に
便箋一枚とどめ置き
拇印で末路を占ってみせよう
岐路は枝葉に埋もれ神隠し
霧雨は靄のなか
幻視の線香花火が残像へとはぜる
こい こい
蛍 こい
こっちの水は甘いぞ
そっちの水は苦いぞ
こい こい
蛍 こい