夢の晩酌
由木名緒美

ひとりの部屋に
はらはらと蛾がさまよい込み
白い壁に逆さまの
ハート模様をこしらえる

こんな日は
蛾にさえ心を慰められるものだ

浮き沈む日は山の間に
虫の囀ずりは蜃気楼のごとく

幼子よ
彼の温もりは安らぐか
報いの吉報は的を射たのか

鈴生りの鼓動に螺旋は果てなく
フラスコの底で記憶がふふふ と笑う

煙となって登りきるなら
血の一滴も流してみようか

去る部屋に
便箋一枚とどめ置き
拇印で末路を占ってみせよう

岐路は枝葉に埋もれ神隠し
霧雨は靄のなか
幻視の線香花火が残像へとはぜる

こい こい
蛍 こい

こっちの水は甘いぞ
そっちの水は苦いぞ

こい こい
蛍 こい


自由詩 夢の晩酌 Copyright 由木名緒美 2019-09-03 20:17:32
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