趣味で詩を書いてるなんて
こたきひろし

思いつくと
手当たりしだいどこにでも書いてしまう癖がなおらなかった
ノートは勿論の事
教科書の余白
新聞の折り込みちらしの裏側の白紙
左の手のひらの上にも
さすがに紙幣には書けなかったけれど

いつも何の前触れもなく
空から詩が降ってくるもんだから
それをこころよく受け止め
受け入れなくてはいられなかった

でもね、それは過去の話
俺がまだ若かりし頃
現在はスマートフォンっていう便利なものが現れて
空から降ってくる詩を手当たりしだい受け止めてくれる

ある日
イオンモール内の書店で
文庫本の頁をぺらぺらと捲っては閉じていたら
背後から声をかけられた

振り返って見たら
記憶にない女性が立っていて親しげに笑みを浮かべておられた
もしその人が男だったら俺は険しい顔つきで答えたに違いないが
すこぶる美女だったから
つい俺は微笑み返しをしてしまった

しかし見覚えのない相手だったから
当然聞かない訳にはいかなった
「どなたですか?思い出せないんですけれど、以前どこかでお逢いしましたっけ?」
「いえ初めてですよ。貴方様に声をかけるのは」
と彼女は言った「初めてですけど、ずっとずっと貴方の側につかず離れずに見守らせて頂いてきました」
「はい?どういう意味でしょう?」
俺は単純に意味がわからずにキョトンとしてしまった
すると彼女はおもむろに答えた
「私は貴方の詩の精です」
あまりにおかしな事を言われたので俺は相手を「アブナイ人の類い」だと思ってしまった
いくら美人で優しい女性でもそういうのは勘弁して欲しかった
「そうですか。でも申し訳ないけど急ぎの用事を思い出しましたので失礼しますね」
すると彼女は引き留めた
「えっ何で、私は貴方の詩の精なんですよ。けして怪しい者じゃありませんから」
と彼女が言ったので
「たしかに俺は詩に取りつかれていますし、正直無類の女性好きですけとね。貴女がとても安全な方ならお近づきになりたいですよ。でも、やっぱり生身の女の人じゃないと実感わかないですから」

すると彼女は言った
「やっばり貴方は詩人を装いながら中身はただのスケベだったんですね。幻滅しました」

それで俺はすかさず答えた
いくら詩人でも男は男ですから


自由詩 趣味で詩を書いてるなんて Copyright こたきひろし 2019-08-31 06:48:03
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