過酷な運命でもないが
こたきひろし

見た目にぱっとしない男なんてざらにいる。
人柄は良さげで真面目で誠実そうで、なのに活気と男の華と色気を持ってないから、女はなびかない。ついていかない。
男だって外見、清潔と身だしなみのないやつは女に避けられてしまうさ。

十八九の小娘にいい歳の男が惚れちまってどうすんだよ。自分の顔と姿をしみじみ鏡で見てみろ。若いおねえちゃんが相手にするわけないだろうが。
チーフコック兼店長のKさんから叱咤されてしまった。親心というよりは、店の責任者として仕事に身が入らない姿勢に業を煮やされたからだろう。
俺は返す言葉が見つからなかった。
あのさぁ。俺はお前が誰にうつつを抜かそうと知った事じゃない。だけど仕事に心有らずは見逃せないんだ。困るんだよ。大事な生活の糧だろ。しっかりやってくれよ。
と言ってから一呼吸間を開けてKさんは言った。
どうせまた失恋して惨めな思いするに決まってるだろう。
お前の器量じゃ女をどうこうなんて出来ない相談なんだからさ。それくらいはいい加減学習しろよ。
フーテンの寅さんじゃないんだからよ

それはKさんの理不尽とも取れる言動だったかもしれなかった。しかし俺はグッと耐えた。自分の思いを殺して。
俺はふたたび返す言葉が見つからなかったのだ。
情けない。


自由詩 過酷な運命でもないが Copyright こたきひろし 2019-08-29 00:05:45
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