北アメリカから来た女
末下りょう
この夏に北アメリカから来たバックパッカーの女と友人が意気投合して数日を共に過ごした。
駅前の英会話教室に通う友人にとっては願ったりの相手だ。
三人でしこたま酒を呑み、そのまま友人宅で寝た日の朝、くっついて眠る二人をおいてコンビニに買い出しに行き、お手洗いを借りてうんこをして、サンドイッチやらおにぎりを適当にカゴに放り込んだ。
レジ袋をさげて部屋に戻ると二人も起きていて、何となく女に納豆巻きを投げ渡した。友人は不思議そうにこっちを見た。それから少し鼻で笑い、友人は女の納豆巻きの包装フィルムを丁寧に開いて海苔を酢飯に巻き、また女に渡した。
女は納豆のにおいと先っちょのネバネバを確認しながら英語で呟いた。
爽やかな朝に世界中の人々がこれを食べるようになったら、わたしはもう生きていけないわ、みたいなことを。
じゃれるようにもめた挙げ句、女は納豆巻きを友人のサンドイッチと交換して、コーヒーで流し込んだ。
日中は蝉がまだ激しく鳴いているけれど、夏もそろそろ終わりで、涼しい夜にこれを書きながら聴こえてくる鈴虫の鳴き声は結局耳鳴りだった。
北アメリカから来た女は、あれから数日を友人と過ごし、深夜の高速バスで次の街に消えた。
彼女はあおさの味噌汁を気に入って毎朝飲んだらしい。