僕が眠りについた後は
邦秋

椅子の上、ゆっくりと揺られて
止まらない時計の針を眺める
覚えているはずのない揺り籠の
寝心地を、なぜだろう思い出す

初めて綺麗な心を取り戻せたとき
記憶を旅するストーリーが目の前始まって

たった一粒の涙が全ての笑顔を濡らしていく
癒えたつもりで気にもしなかった
傷跡はまだ傷んでいる

そんな悔やむことばかりが映し出されていくのは
大事なものを傷つけないよう生きる術もわかっていたから


少しずつ心音が弱って
幕のように降りてくる瞼たち

窓から光が僕と椅子に射し込んで来て
体が少しずつ軽くなって浮かび始める

海の全てを巻き込んで寄せた波が返した後
砂浜に光る貝殻が静かに残されている

僕が眠りについた後も時計は止まらないから
明日からもここで生きるあなたは
せめて幸せなままでいてほしい


自由詩 僕が眠りについた後は Copyright 邦秋 2019-08-23 23:15:26
notebook Home 戻る