どこ吹く風
ただのみきや

憂いに厭いて 惚け 文ぬらし
爪を砥ぐ気怠さ
褐色の蝶 占わない空の果て 見失い
浸る暑さに
影を広げ すり足で
拾われない小石の顔点々と
避けながら奥へ 真中へ 綱で曳かれる畜生か
ちぎれ飛ぶ 眼差しの
煮詰められた甘さ 量りかねたまま
濛々と 忘却との間 まばゆさを固く畳んで
折り鶴一羽 あどけない死へ舞い降りる
朝顔に捲かれ 寝床は軽く
太陽のない青空に 包まれて
暗い窯へゆっくりと滑り出す
水晶は破裂する
落下した梅の実は
匂いを臭いに変え 木陰に積み上る
後にも先にも腐敗だけを微睡みながら啄んで


 裏切るよと頷いて 空を駆け上がる足跡もなく
 残されて
 草木の繁った廃屋の
 ひんやりした微笑みに繫がれたまま 今も
 蝶を追うように
 壁伝いにさまよい歩く
 幾何学的病巣
 いつの頃からか目隠しをして
 形と音のつなぎ目を弄っているが
 堂々巡りの片言に 時おり
 風鈴が答えるだけ


想念が雨へと解かれる
光と影にあやされ眠る幼子と添い寝する母の面差し
消しゴムで擦った
残り滓から再びなにを聞こうとするのか
指を落としたような
花鋏の感触
手毬ほどの紫陽花をガラスの器に浮かべ
溶け混じる涼しさが 瞳から
肌の裏へと巡るまで
窓の下死んだカゲロウの翅が光を孕む
雲の形が変わるように
あなたは得体の知れない何かになった
騙すことも裏切ることもなく
錯覚は結晶化する
美しいという形容は醜いもののために
蜂に追われて泣き腫らした子供が
小鬼に変わるまで
見知らぬ誰かが復讐に来るまで




                《どこ吹く風:2019年8月10日》










自由詩 どこ吹く風 Copyright ただのみきや 2019-08-10 14:17:10
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