多く産まれる
DFW

てんじょうから染め物を垂らし ろうそくと鏡が揺れる小屋の もうとっくに知っている怪談に 肩をよせて聞き入った作法が
いとおしい


夜店のカラーひよこに触れた鮮やかな記憶 金魚を入れた袋の向こうで笑った子 きらめく綿菓子をちぎりあい ねりあがる飴細工に見惚れて 狐のお面をした浴衣のあしの内側をつたって混じる汗と血が 石畳を濡らして 土が泥になり    境内の献灯に照らされたしろい素足がわらった祭

かたあし立ちでりんご飴を舐めたら

わたしはあしの消える兆しにすべり夜道にぱっと出て


けもの道のような赤い橋から川をのぞくと つきなみな月の映る水面にゆらゆら人影がくずれて
また人影になって

目が揺れて
もう知っている水をうったように静かな足音に抱かれて溶け入った 「初めてのように」の作法


幽霊たちが死んだふりをする夜は

ひとつの身ぶりでしかない暗がりから青い水が多く産まれてくる





自由詩 多く産まれる Copyright DFW  2019-08-08 20:48:32
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