暑い夏の通夜
末下りょう

暑い夏の通夜にゆるんだネックタイ

どの家の戸も開け放たれ
箪笥の匂いが軒先からあふれてくる

ガラスの風鈴が涼やかに鳴り
カラスの群れが電線で毛づくろいし
包丁座が夜空に輝き
エンバーミングした美しい寝顔に
千切りの月光を降らせている

薔薇が育てた猫をくわえたじじぃが
ながい奇妙なケツ毛をゆらし
尻からげてタコ踊りを
舞っている

薔薇薔薇のたうちぎょと沸き立つものもなく
チンケな小道の薄闇に消えていく
しょうもなく

なまくせえ地ベタで光るミミズを丹念に踏みつけて
落ちたイチジクの崩れる果肉を朝焼けと呼び
じじぃから逃げた猫が
薔薇のはらわたを一枚羽織って
縄張りに帰る

イチジクのように
一字一句通夜通夜した夜だが睫毛が濃い
ところで一体誰が死んだ

風にゆれるネックタイが蛇になり首を噛む
ドクダミの花が溢れ出る


自由詩 暑い夏の通夜 Copyright 末下りょう 2019-08-06 19:34:58
notebook Home