暑い夏の通夜
末下りょう
暑い夏の通夜にゆるんだネックタイ
どの家の戸も開け放たれ
箪笥の匂いが軒先からあふれてくる
ガラスの風鈴が涼やかに鳴り
カラスの群れが電線で毛づくろいし
包丁座が夜空に輝き
エンバーミングした美しい寝顔に
千切りの月光を降らせている
薔薇が育てた猫をくわえたじじぃが
ながい奇妙なケツ毛をゆらし
尻からげてタコ踊りを
舞っている
薔薇薔薇のたうちぎょと沸き立つものもなく
チンケな小道の薄闇に消えていく
しょうもなく
なまくせえ地ベタで光るミミズを丹念に踏みつけて
落ちたイチジクの崩れる果肉を朝焼けと呼び
じじぃから逃げた猫が
薔薇のはらわたを一枚羽織って
縄張りに帰る
イチジクのように
一字一句通夜通夜した夜だが睫毛が濃い
ところで一体誰が死んだ
風にゆれるネックタイが蛇になり首を噛む
ドクダミの花が溢れ出る