擬態標本
ただのみきや

ひと粒の種の眠りに欹てて
空と地は結ばれる
養い子らの息
殻の中で膨れる水脈 
夢のからだが眠りを突き破るまで

太陽が孵す夏の日は澄んだ炎
抱きしめた夜は火傷を負って
欠片ひとつ 片目のよう
朝を拒んで照り返す
小さな甲虫を落として往った

種は土から日差しを吸い
骸は夜と月を掲げ続けた
満ちるものは満ち
空ろはますます空ろ
兄弟のように似てはいたが

わたしはここに在る
こことはわたしの在るところ
座標のピンが標本にする空ろな殻の中
夜は夜へと沈み
わたしは中心に身を投げる




            《擬態標本:2019年8月3日》








自由詩 擬態標本 Copyright ただのみきや 2019-08-03 22:21:43
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