反射光
ただのみきや

風は立ち止まると消えてしまった
草木がこらえている囁きを零すまいと
螢を宿した子宮のよう緑は極まり
森は風の帰りに欹てる

蝶の影が肩を掠めた
あるはずのない感触は誰かの笑いの口形
声もなく顔もない
耳は真昼に夜を見上げる犬

融けたガラスが冷めて往く過程
青い皹を帯びた額の底から
墓の御影石に顔を映す男が浮かんでくる
溺れるように沈むように

買ってもらったばかりの仔犬を連れて少女は
通る人皆に微笑みかけた
小指の爪ほどの刺し傷で瞳は蒸発する
遠く選挙カーが幻へと帰る頃




               《反射光:2019年7月21日》










自由詩 反射光 Copyright ただのみきや 2019-07-21 13:26:10
notebook Home 戻る