妖精の花押
丘白月


紫陽花は魂の宇宙
蝶の巣のように
いくつも羽根を重ね
丸く優しい香りを生んで
初夏の庭を囲む

野点の静かな音が
風よりも静かな音が
紫陽花に囲まれ
見守れて抹茶の香りが
天に昇っていく

紫陽花から
花びらが散るように
妖精が次々に飛んでゆく
大きな松の下で炭が小さく赤く
命の湯気をたてている

木漏れ日の下に
紫陽花の影絵が描かれ
どうぞお楽しみ下さいと
燃えるような魂を象った
花押を草の葉に書き残した


自由詩 妖精の花押 Copyright 丘白月 2019-07-17 16:12:18
notebook Home 戻る