バケモノ語り
立見春香

てのひらに舞い降りた
やわらかなバケモノの息は冷たく

右腕に
重過ぎる
そのための花を抱えて
植物園の温室を目指すのは
そこが
恋愛の終焉だから

それを
好ましいと思ってしまった
わたしの背中は
バケモノを背負ったまま
凍っている

薔薇の棘のようなあなたの爪を
立ててもらいたい
素直な痛みが欲しい


(だれが冷たい自由を知ってる?
(愛が冷える瞬間のあの音を?


あの恋愛の最期を告げる
消火後の煙りの匂いは
まるで全てを受け入れる
バケモノの引き攣った笑顔に似せて
甘ったるいのかもね


とてもいやらしく
もっともっとあざとく
悲しみの赤に染まった
涙を湛えた瞳、
だったりすることが
耐えられなく、恥ずかしい


そんなことを
知らないバケモノは
バケモノの冷たい息を
植物園の温室の
最後の憩いを言葉にして
わたしを搦め捕ろうとする


(けど
(だれが冷たい自由を知ってる?
(愛が冷える瞬間のあの音を?


醒めた目をした、バケモノメ

そんなに変わらずに
一途に一人のため一つの幸せを
求めるの?

見透かされ、嘲笑われた
闇の世界に瞳を置いても
闇の中の微笑みは忘れずに
生きていくのだろう


(ふつうの人として
(生きるんだけど
(スーッと
(ほおをつたう、あたらしい涙は
(白く、やさしく、すこおし、
(あたたかい、色をしている
(気もするけれど





自由詩 バケモノ語り Copyright 立見春香 2019-07-16 22:52:30
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