Kiss
ただのみきや

アスファルトに白く煙る雨は激しく
鶯は黙ったまま昨日あれほど愛し合ったのに
他人より冷たい自分が通り過ぎる
あの日見た夢の

百本の釘を打たれ血の泡を噴く狐
笑うように喘ぎ死にきれず
朝の通学路で内臓を晒すと
百一本目の憐憫が菌糸のように変えてしまう

恵まれない子どもたちの厚化粧が
新聞紙でわたしの夜を窒息させる
セーターを毛糸へ解く 時は時計を憎む
子午線に沿って移動する二足歩行の痛点

食べ残されたクワガタの頭部
訪れた死の形を大顎に挟んだまま
夜明けの白さに異化される
記憶に降る火の粉は冷たい感覚はもうない

青葉や花房を撫ぜた風の手が
わたしをも掻き抱き何事かを告げる
空高く放った透明な鈍器
閉じた目で見上げる素振りは祈り

落下して静止する鍵のかかった果実
狂ったように絡みつく蟻に蠅に目はなって
永劫の美に秘められた腐敗の酒
触れることもなく崩れ堆積する言葉が自分




                 《kiss:2019年7月13日》









自由詩 Kiss Copyright ただのみきや 2019-07-13 15:20:30
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