毒の花たちは私の理想の庭で微笑む
Lucy

 
アブラムシの大発生に悩まされたのは去年のこと
気温の上昇とともに細菌のようにどこからともなく湧き出る奴らは先端近くの柔らかい茎や花芽や蕾に群がり食い荒らす
本で調べると薬剤を噴霧するよりもゴム手袋で捕殺するほうが効果的だと書いてある
厚手の手袋はめた手で緑の汁が出るそいつらを片っ端から潰しているとこちらが具合悪くなり吐きそうになった
しかたがないので緑のパウダーをたっぷりまぶされたかのような茎を片っ端から切り落とす
花は強い
切られたところからまた新しい芽を出して次々に蕾をつけてくれる
それでもそこに又虫がたかる
それを見逃さずすかさずスプレーで薬をかける
果てしなく続く虫との戦いに明け暮れた
コガネムシを一回り小さく色を汚くしたような虫も花が咲くころに団体でやってきてちょうど開きかけた花びらをぼろぼろにしてしまう
さわっても逃げないくらい夢中で花にもぐりこんでいるやつにスプレーをおみまいすると羽を広げて逃げていく
産み付けられた幼虫は葉っぱを穴だらけにした
虫のほうは悪気もないし戦っているつもりなどないのかもしれない
まして憎まれていることなんて思いもよらず振る舞われた御馳走を食べに喜んでせっせとこの憩いの庭に訪れているだけなんだろう
意志の疎通が無いとはそういうことなのだ
そのうちに薔薇の世話などつくづく嫌になってくる
楽しむどころかストレスが溜まるばっかりだ
そのようなある日オルトランという画期的な殺虫剤の存在を知る
花に直接かけるのではなく根元の地面にその白い顆粒を散布するだけで土中の水分に溶け込み根から吸収されてその成分を含んだ花を食べると虫が死ぬという
なんという素晴らしい魔法薬
虫と直接対峙せずとも見えない間に手を下さずに駆除できる
虫のほうから寄り付かなくなってくれるのだ

今年 私の小さな庭から虫が姿を消し花々はのびやかに咲き競っている
私が植えた通りに育ち配置したとおりに色を並べた理想の花園
私は胸を高鳴らせ好きな色合いの花束みたいな庭に見とれて暮らす長年の夢はかなった

ある朝 花びらに埋もれうっとりと動かない黒い虫を見た
追い払おうと花鋏の先で触れると ぽとりと落ちた





自由詩 毒の花たちは私の理想の庭で微笑む Copyright Lucy 2019-07-12 19:35:30
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