末下りょう

蛍の光のなかに二人はもういないし 蛍もいない
きれいな緑色の軌跡ばかりが
薄いパネルの表面を掠めて 涼しげな川岸の草葉を揺らしている

蒸気と霧が立ち込める、ネオンと接合車が溢れかえる、四六時中雨上がりのブラックマーケット
を仕切る男のてのひらから蛍が飛び立った
男のゆびさきが蛍になったのかもしれない
ちがうかもしれない
ああ蛍だあと思ったものが縦横無尽に飛びまわり
光の文字を闇に描きどこかに飛び去った
遠い異国の古代文字みたいで
まったく読めない
ある種の規則性を辛うじて認識できるだけで
そのうち闇に溶けていった

スーパーマーケットの閉店を知らせる蛍の光が 
別れのワルツになって毎晩きこえてくる
壁の薄い塒でぼくは四六時中そんなたぐいの
夏に出回るあやしい動画をみている


自由詩Copyright 末下りょう 2019-07-10 19:54:56
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