君は蛍、夜を泳ぐ
中原 那由多
逢魔時に貨物列車がガタンゴトン
その向こう側
それはいつの日も
青い幻、淡い眼差し
生憎の、雨
4.7inchの水槽を
ただ、漠然と覗き込む
上へ、下へ、奥へ、奥へ
気づけば鱗が瞬いて
気付けば背びれが、尾ひれが生えて
扇形の排水溝から
海を目指して飛び出していく
それ故に、クラゲの産卵に見惚れては
瞼の裏側にいつも忘れ物をしている
君は蛍、夜を踊る
止まらない風
終わらない夜
不意打ちの
涙
積乱雲が仁王立ち
睨みつけて
睨みつけて
稲妻を振り下ろせば
紫陽花が、にかりと笑う
君は蛍、夜に落ちる
落ちる
落ちる
血液の循環
命の実感
枕の裏側へ、その奥を目指して
どっ、どっ、どっ
蜻蛉の眼鏡であるかのように
虹色で
逆さまの
景色はそっと散らばった
六角形に散らばった
四
方
八
方
散らばった
青いシャーベットが歯に沁みたような
冷たい億劫を余所目に見ながら
ガラス玉を掻き集めた
月が落とした
雫
と
雫
の隙間を掻い潜る
淡い葛藤、ラムネ瓶
飛び跳ねた浪漫に心が踊れば
君は蛍、夜を泳ぐ