傾いていく夜
長崎螢太
虚しさは、ろうそくの炎のように揺らめいて
正体を見失う
スマホをスクロールさせても、行き過ぎてしまって
たどり着きたい所にはいけない
私たちは正しく嘘を、粉飾できないでいる
街灯ひとつで照らしだせる不安の膜外で微睡んでいる
ガラス越しの外気の凍てつく画像の中にいる
10秒チャージの朝食の食卓にいる
想像することは、容易いことだけど
歯を食いしばり立ち上がる人を、斜めに見みながら
私たちは、何をうしなったんだろう
ぼんやりとひかるデジタル時計の
午後12時から午前0時に切り替わるしゅんかんに
1クロックごとの瞬きは
美しく壊れやすいジグゾーパズルのようで、
喪われた自我をとり戻すための触手を伸ばして
私たちは深く検索をくりかえす
意味は自問のたびに消失し、夢のように忘却する
もう孤独であることは、無理なのかもしれない
おやすみ、12時のない時計
間延びしたサイレンの音
記憶をなくしたメモリを内蔵して
私たちは、どこにいくのか
希薄な問いは、かすかな自壊を含み波紋をひろげる
きっと、少しずつ停滞していく
さようなら、虚しき炎
夜の積もる灰を掬いながら
私たちは、しずかに傾いていく