傾いていく夜
長崎螢太

虚しさは、ろうそくの炎のように揺らめいて
正体を見失う
スマホをスクロールさせても、行き過ぎてしまって
たどり着きたい所にはいけない
私たちは正しく嘘を、粉飾できないでいる

街灯ひとつで照らしだせる不安の膜外で微睡んでいる
ガラス越しの外気の凍てつく画像の中にいる
10秒チャージの朝食の食卓にいる
想像することは、容易いことだけど
歯を食いしばり立ち上がる人を、斜めに見みながら
私たちは、何をうしなったんだろう



ぼんやりとひかるデジタル時計の
午後12時から午前0時に切り替わるしゅんかんに
1クロックごとの瞬きは
美しく壊れやすいジグゾーパズルのようで、

喪われた自我をとり戻すための触手を伸ばして
私たちは深く検索をくりかえす
意味は自問のたびに消失し、夢のように忘却する
もう孤独であることは、無理なのかもしれない



おやすみ、12時のない時計
間延びしたサイレンの音
記憶をなくしたメモリを内蔵して
私たちは、どこにいくのか

希薄な問いは、かすかな自壊を含み波紋をひろげる
きっと、少しずつ停滞していく
さようなら、虚しき炎
夜の積もる灰を掬いながら
私たちは、しずかに傾いていく




自由詩 傾いていく夜 Copyright 長崎螢太 2019-06-28 10:27:13
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