マダムと愛とぼくと
末下りょう

パーテーの席で、主役のスピーチ中にとんでもなく臭いすかしっ屁をしちゃったんだ

放出したときの
胃の残留物
我慢時間
熱量
速度
無音
どれを取ってもとんでもない臭さであることは明白で

ぼくは朝から尋常じゃなく鼻がつまっていたから実際の臭いはわからなかったけれど
パーテーの参加者たちが微妙にざわつく空気は手に取るようにわかった
だって犯人だから

音もなく鼻をつく異臭は音を聞いた異臭の何倍も臭く感じるのでみんな恐らく吐きそうなくらい我慢しているのだろう
そして隣でシャンパンを飲んでいたマダムはきっとすかしっ屁の出どころに気づいているのだろう

でもぼくは絶対に名乗り出ようとはしないし
誰一人としてすかしっ屁の犯人を探そうとはしないこともわかっていた
そしてあからさまに臭そうな顔をするものも
わたしのすかしっ屁は臭くないがあなたのすかしっ屁は臭いと言うものもいなかった

大人のスルーからしか生まれない愛もある

ぼくはマダムに微笑みかけ、マダムもぼくに微笑みかえしてくれた
すさまじい臭さであろうすかしっ屁の最前線で


自由詩 マダムと愛とぼくと Copyright 末下りょう 2019-06-27 21:46:36
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