旅の終わりに
嘉野千尋



   喜びも、優しさも、喪失も悲しみも、
   言葉によって届けられた
   わたしは面影を探して立ち止まり、
   時に夢を見たような気がする
   言葉しかない世界で、
   紙の温もりからも遠いはずの画面越しの言葉が、
   時に海を越えた声を届けて寄こした


   差し出す手の届かない場所で、
   わたしも彼女も静かに泣きながら眠った


   忘れかけた声を、抱きしめるようにして


   返されることのない言葉を恐れる一瞬の向こうに、
   届けられる言葉があり、
   向けられる眼差しがあり
   手紙の書き出しの言葉を、
   何度も書き直しながら月日を過ごした


   光のスピードで
   旅をする言葉たちが、
   迷いながら軌跡を描いている
   今日という限られた時間の中にも、
   羽ばたいていく幾億の言葉があり
  

   遠くまで旅をしなさい
   たくさんの人に出会い、
   たくさんの想いを背負って
  
  
   そしてその長く短い旅の終わりに、
   どうか彼女の元に
   涙のない夜を届けてほしい


   喜びも、優しさも、喪失も悲しみも
   そのすべてを携えて




自由詩 旅の終わりに Copyright 嘉野千尋 2005-04-01 18:44:45
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