旅の終わりに
嘉野千尋
喜びも、優しさも、喪失も悲しみも、
言葉によって届けられた
わたしは面影を探して立ち止まり、
時に夢を見たような気がする
言葉しかない世界で、
紙の温もりからも遠いはずの画面越しの言葉が、
時に海を越えた声を届けて寄こした
差し出す手の届かない場所で、
わたしも彼女も静かに泣きながら眠った
忘れかけた声を、抱きしめるようにして
返されることのない言葉を恐れる一瞬の向こうに、
届けられる言葉があり、
向けられる眼差しがあり
手紙の書き出しの言葉を、
何度も書き直しながら月日を過ごした
光のスピードで
旅をする言葉たちが、
迷いながら軌跡を描いている
今日という限られた時間の中にも、
羽ばたいていく幾億の言葉があり
遠くまで旅をしなさい
たくさんの人に出会い、
たくさんの想いを背負って
そしてその長く短い旅の終わりに、
どうか彼女の元に
涙のない夜を届けてほしい
喜びも、優しさも、喪失も悲しみも
そのすべてを携えて