幻の家
丘白月
錆びたアーチには
バラの弦も落ちて
古いレンガの門は
もう誰もくぐらない
屋根のない小さな家の
塗り壁も剥げ落ちて
床に落ちて忘れ去られた
一枚の絵があった
肖像画の少女は
遠くを見て
懐かしそうな目をしてる
誰が描いたのか
だれも知らない
誰もこの家にいた
少女のことは知らない
ただ一枚の絵が
この家に
楽しい日々と
笑い声があったと伝える
この家には
いつも一人で来る
誰も知らないから
誰にも見えないから
遠い森の中だけど
私にはとても近い森
だから
誰も知らない
ずっとずっと
遠い昔に
私の家だったのかもしれない
ただそう思う
明日はあの絵を
持って帰ろうと
そう思った
ただそう思っただけだった
あの絵の少女に
恋をしたのかもしれない
だけど次の日
どんなに歩いても
あの家にたどり着けなかった
少女はあの家を
去りたくなかったのだろうか