薔薇
渚鳥

花をみんな枯らした薔薇を見た気がする。野の薔薇か花壇の薔薇か。或いはそんな悲しい物はまだ見たことがないかもしれない。

幼い子供らは走りちりぢりに消え笑い声が耳の奥をくすぐる

手品師が飲んでいるワイングラスに火炎が宿り

天国の隅でつややかな緑が孕んでいる秘匿

目眩、背中の窪みに終日、よもぎ猫は寄り添って鳴いていた。警戒している人の隣に座るならば左と猫に教えた覚えはなかったのに。

流れるとすれば右からか左が先か揺れている。
僕は男の子ではなかった、ダミーなのだ。罰を舐めた舌の痺れが取れない。話すべきほんとうについて僕は知らない。忘れてしまったのか手品師に抜き取られたのか。両手はだらりと垂れている。

病んだように穢れのように甘やかに捩れた後も先もない夜。つややかな薔薇の実が笑っている。

隠したか隠そうとしたか宝石を繋いだみたいな重たげな糸を切られた。

幼い子供の靴底でピンクの薔薇が助けを求めている。それは私の涙だった。意識は弾け揺らいで落ちる。
鮮やかな鮮やかな鮮やかな靴音。


自由詩 薔薇 Copyright 渚鳥 2019-06-10 22:17:33
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