未完成の小編
こたきひろし
よっちゃんは母子家庭の子供だった
お兄ちゃんが一人いて、中学を出てすでに働き出していた
よっちゃんは小学校の四年生で、俺は五年生だった
俺とよっちゃんの家は近かったけれど、ほとんど遊んだ事はなかった
けれどその日よっちゃんから家へ遊びに来ないかと誘われた
「すごい本を見せてあげるから」
とよっちゃんは言った
学校から帰ると俺はよっちゃんの家へ行った
俺の家もよっちゃんの家も農家で山間の田園風景の中にそれらしく溶け込んでいた
誰もいないからとよっちゃんは言った
それは家の縁側の床の下に隠してあった
段ボールの箱の中に入っていた
本が入っていた
本はすべての頁が写真だった
よっちゃんが女と男の局部の隠語を口にした
もろに写っているだろう
と言った
どうしたのこれ
と俺がよっちゃんに訊いたら
母ちゃんか兄ちゃんか
どっちかが隠しているんだと思う
まさかお母さんはないでしょ
と俺が言うと
大人の世界は怖いんだよ
意味深に
よっちゃんは言った
縁の下には秘密が隠れているんだ
と
よっちゃんは悟ったような言葉を口にして笑った
ひろちゃん一冊あげるから持っていきなよ
とよっちゃんは言った
そんな事してばれたら大変だよ
と
俺は欲しい気持ちを抑えながら
拒んだ
するとよっちゃんが言った
心配する事ないよ
兄ちゃんも母ちゃんにしても俺に言えない秘密になるからからエロ本を盗み見たのがばれてもそれを確かめられないだろ
それに二人は大きな秘密を俺に隠してるんだ
どんな秘密
と俺は訊いた
それは絶対に言えない
とよっちゃんは答えた
母ちゃんは父ちゃんがいないからずっとさびしいんだよ
兄ちゃんは母ちゃんが大好きだからそのさびしさを慰めてあげているんだと思うだけど
とよっちゃんは秘密の断片を口にした
勿論俺だって母ちゃんは大好きだけれどさ まだ子供だから
と感慨深く口にした
その内に日は落ちて辺りは暗くなってきた
俺はそろそろ帰らなければと思った